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「どぉおー……んって綺麗に、あがっていったんです」
 東島君は高校生の頃、花火大会に友人グループ全員で観にいった。
 その中には彼がほのかに好意を寄せる女の子がいたという。
 花火があがるたび、向日葵のように可愛い横顔が照らされる。
 夜空に咲く大輪の花よりも、隣の彼女を見る時間の方が長かったと思う。
 東島君の視線に気づいたのか女の子は振り向いて照れ笑いを浮かべた。
「もうこっちはドキドキして……ふいって視線逸らしたんだ。そしたら……」
 小さい女の子がいた。
 まるで誰かが連れてきた年の離れた妹のように、友人グループの中心に立っていた。
 その子は唐揚げをほおばるように大口をあけ、一心に花火を見つめていた。
 どぉおー……ん。花火があがる。
 辺り一面が白く照らされる時、子供は振り向いていた。
 首の角度が百八十度。正常ではない顔の位置で女の子は笑っていた。
 数刻前には気づかなかったのに、今では泥まみれになっていた。
 おかっぱ頭の下には巨大な瞳。黒目が大半を占めている瞳。
 口とも呼べない黒い穴が上下に動いた。
「うちやかれてしんだ」
「え?」
 袖を引かれた。
 ゴムを焼いたような匂いが鼻をつく。
「おにいちゃんはやくきてはやくきてはやくきてはやくきて」
 
 気がつくと花火は終っていた。
 東島君はいつのまにか友人が用意していたシートに横たわっていたという。
「あれ?」
 お前どうしたんだよ。ほら着替え。
 友人の言葉と、なぜ自分が横になっているのか不思議だった。
「え?」
 股間を見ると濡れている。
「お前、突然小便漏らすわぶっ倒れるわ……マジ心配したんだぞ」
 わけがわからなかったが、自分が気絶していたということは頭のふらつき具合から理解できた。
 東島君が思いを寄せる女子含めた数人はだいぶ前に帰っていたという。

「不思議な体験はあれきりです。もちろん好きな子とはうまくいきませんでした。だって翌日からのあだ名は『小便ハナビ』でしたから……」
 できればもう二度と怪異の体験はしたくないと東島君は締めくくった。

引用元:人から聞いた怖い話

 

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