eye
投稿者:たむきち
思い出した。
いまから35年ほど前のこと。もうちょっと前かもしれない。私が小学生だったころ。
いまもたいしてかわらないけど、当時住んでいたのは、あたり一面田んぼと畑で、30軒あるかないかの集落が、数キロ間隔で点在するような地域だった。
1キロ進んでやっと1メートル高くなるくらいの平野部だったから、地平線まで田んぼが続いていて、よく晴れた夕暮れ時なんて頭上から西の空にかけてのグラデーションがそれはきれいで、不思議な光景だった。
ある夜、妹とふたりで真っ暗な道を歩いていた。懐中電灯を持ってふたりきりで歩いていたのだから、おそらくなにか行事があって、近所の公民館からの帰りだったと思う。家のすぐ近くが公民館だった。
懐中電灯のまるい光を足元に向け、ちょっとこわいねなんて言いながらふたり歩いていたと思う。実際すぐそこが墓地だったから。
自宅は地域の主要道路である一本道(一応県道)から見ればちょうど集落の裏側で、はずれでもあり、周りに民家はなく、ふつうに喋る程度の声なら誰の迷惑でもない。はしゃぐわけでもないが、街灯もなく大人のいない暗い道は、子どもにはちょっとした異世界だ。
あと少しで自宅に着くころ、なにかひらひらと白いものが見えた気がした。懐中電灯の明かりに蛾でも寄ってきた。当時の愛読書が昆虫図鑑だった私はそう思って、それが行きすぎた方に明かりをやった。
光に照らされたのは、白い蛾。違った。白い蝶。
揚羽蝶より少し大きいと思った。
蝶って夜も飛ぶものなのか。その蝶を追って懐中電灯を向け、とある小屋の外壁を照らした。その瞬間ぎくりとした。
影がなかった。

 

そのあとどうしたのか、ほとんど覚えていない。記憶にあるのは、妹の手を強引に引いて駆け出した瞬間まで。
もともと怪談のようなものや狐狸に化かされた類など、なにかしら伝承のある土地柄だったから、なにかいつもと違うものを見た、そんなものだったのかしらとも思う。
ただ、それからというもの、私の目には、私にしか見えないなにかが見えるようになった。私のまわりには、青い光が尾をひくように、ふわりと影を残すものがある。
あれは、あのときの蝶の影なのか、それとも別のなにかなのか。確かめようもない。

引用元:怖い話ラボ

この記事を読んだひとは、こちらも読んでいます