20111119160027

知り合いの話。

彼は仕事柄、長いこと山に篭もることが多い。
そのため山の持ち主に断って、活動基地となる簡単な小屋を造っている。
そこに私と友人二人が押しかけていた時のことだ。

差し入れの酒とジャーキーを摘まみながら、下界の他愛もない話をしていると、不意に彼が顔を上げた。

宙を睨むような表情で、鼻をしきりにヒクヒクさせている。

友人:「どうした?」

何の気なしに友人が尋ねてみると、「今、誰かこの山に踏み入ってきた。多分、三人。○○沢の方から」と、そうあっさりと答えてきた。

彼以外の皆が驚いた。
代表するような形で私が問う。

私:「そんなこと、何でわかるのさ?」

彼はしばらく思案していた様子だったが、やがて肩をすくめ次のように話した。

彼:「ツンと鼻奥に来たんだ。煙草の臭いがね」

彼が言うには、いつの頃からか山に篭もっている間、嗅覚が異常に利くようになったのだそうだ。

初めはそこまで利かないのだが、篭もってから数日経つと、あらゆる匂い、特に煙草のそれに敏感になるのだという。

彼:「どの方角から匂うのか、どれくらい離れているのか。そんなことまで自然とわかるようになるんだ。煙草だったら人数まで大体わかる。え?・・・いや、流石に銘柄まではわからん。山を下りると、すぐに元の鼻に戻るんだけどな。まぁ篭もってる間は好き勝手放題に吸えないから、その代償かもしれん」

半時間後、小屋を訪れた客がある。
私たち共通の山仲間だった。
その数、四人。

山仲間:「遊びに来てやったぞ」
山仲間:「おー、お前らも来てたのか」

そう言いながらドカドカと遠慮もなく上がり込む。

友人:「煙草、吸ってた?」

思わずこちらの一人が聞いていた。

四人はきょとんとした顔をすると、うち三人が携帯用の灰皿を出した。

山仲間:「○○で休憩した時吸ったけど」
山仲間:「俺は吸ってないけどな」

一人だけそう答える。

差し引き三人。
彼の予測とずばり合っている。

山仲間:「・・・そうかっ、そんなにもお前の身体はニコチンを欲していたのかっ」

その後は一晩中、そう言って彼をからかいながらの宴会となった。

彼:「やっぱり言うんじゃなかったな、コンチクショウ」

憎まれ口を叩いているが、嫌がってはいない様子。
一人より多勢の方が楽しいのだろうな、やはり。

次回より、差し入れの品に煙草が含まれるようになった。
吸わない私などにとっては「大概にしろよな」という感じではあるが。

引用元:鵺速あなたの傍の怖い話

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