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俺は、五年前に結婚してすぐにアパートを借りて嫁と2人で暮らし始めた。

 

すぐに町内会に入会して、二年目には早くも班長の役が回って来た。回覧板や広報誌などの配布と町内会費の集金などが基本的な毎月の仕事。

 

厄介なのは集金業務で、いつ伺っても留守の家が数軒あって、中でも一番面倒な家は、Kさん宅だと聞いていた。

 

80過ぎの爺さんが一人で暮らしている。Kさんは足腰が悪く耳も遠いらしい。近所付き合いは無く、どちらかと言うと嫌われ者の部類だと聞かされた。
班長の引き継ぎの時には、Kさんはいつも居留守を使って町内会費を払いたがらないから根気よく通って、毎月必ず集金して下さい。あの爺さんは確信犯で、耳が聞こえないフリをしているだけ。全く人を馬鹿にしている。…と少し興奮気味にアドバイスされた程だった。
班長になって9ヶ月目。Kさん宅へ集金に伺い、靴があることを確認した後いつもの様に大声で『Kさーん!町内会費をお願いしまーす!』と叫ぶ。
いつもと同じで反応は無い。そして、いつもの様にもう一度叫ぶ。これを3回繰り返すと奥の部屋からKさんが『おう。今行く…』と返してくる。俺は、話に聞いていた程厄介な爺さんではないと思っていた。
しかし、今月は5回繰り返しても反応が無い。仕方なく出直す事にして、2時間後に再びKさん宅へ伺った。さっきと同じように叫ぶが反応は無い。3回目の叫びに、ようやくKさんが反応して『お前は来るな…』と言ったように聞こえた。
その言葉に少し腹が立った俺は、もう一度『Kさん!お願いしますよ!』と叫んだけど反応はなかった。
仕方なく明日改めて伺う事にしたが、さっきのKさんの言葉が気になって、その足で前年の班長宅へ相談に行った。前班長は、明日私が君の代わりに集金に行ってやると言ってくれた。
翌日の夕方、前班長はKさん宅へ伺っていつものように何度も叫んでみたようだが、反応は無く、しびれを切らした前班長は家に上がって奥の部屋に向かったらしい。Kさんが居るであろう部屋の襖を開けると、暖房も入っていない身震いするような寒い部屋の布団の中に、Kさんが横になっていたという。
前班長は近づいて『Kさん!Kさん!』と呼び掛けてみたが反応は無いので、思い切ってKさんの身体を揺らしながら、顔を覗き込んだその瞬間、前班長は固まった。Kさんはすでに死んでいたらしい。
警察の調べに寄るとKさんの死因は脳卒中。しかしそれとは別に重大な問題があった。
それは、身体の至る所に煙草で焼きを入れられた痕や爪で引っかかれた傷が見つかったという。
警察の捜査が進む中。Kさんが亡くなって半月後、前班長は突然精神障害を患って入院した。
聞くところによると前班長の状態は、夜な夜な『助けてくれ~!許してくれ~!俺が悪かった!』と病室のベッドの上で叫びながら怯えているらしい。
警察は捜査の末、Kさんに暴行を加えた犯人は前班長と断定した。
班長だった当時、Kさんの対応に業を煮やした末、集金の度に弱っているKさんの身体に熱い煙草で焼きを入れたり、爪で引っ掻くなどの陰湿な暴行を繰り返していたようだ。
亡くなったKさんの怨念が、前班長の精神を狂わせているのか…。それとも自責の念に駆られた前班長が、Kさんの幻を見て狂ってしまったのか…。
Kさんが俺に言った『お前は来るな…』には、Kさんの様々な思いが込められていたような気がする。おそらくKさんは自分の死期が近い事を悟って、最後の気力を振り絞って、その言葉を発したんだと思う。上手く言えないが、そんな気がする。
…最近、病院に行き前班長の様子を見て来た人の話では、とても正視出来ない程に変わり果てた姿だったという。

家族には見捨てられ、親戚にも見捨てられ、友達にも見捨てられ、病室のベッドに縛り付けられ、日々壊れ続けて行く前班長を見捨て無いのは、ただ一人。Kさんだけ。

投稿者:1の1

引用元:オカ学

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