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昨年の初夏、俺は故あって寺で1ヶ月弱修行をしていたんだ。

 

いわゆる「寺生まれ」は、若い時に家の宗旨の御本山に修行に入り、「箔をつけて」帰ってくること
なんかがよくあるが、俺は全くの一般家庭出身。しかも零感。
俺自身、直前まで寺で修行をすることになるとは夢にも思っていなかった。

 

長くなるから詳しい理由は端折るが、日頃から信心深い上司に「人生の役に立つから経験してこい!」
と送り込まれてしまったんだ。
正直断ると出世にも響きそうだし、渋々了解。そんなこんなで俺の寺生活は始まった。

その寺では初夏に参籠行(寺に籠もることな)と、山での修行が行われていて、半分縁故で入れて貰った
俺みたいな素人以外は、各地の寺からプロの坊さん達が集まっていた。
「坊主や神主は特別な力を持っている」
よくあるシナリオだが、実際寺に入ってみると何のことはない。
彼らも普通の人間だ。「般若湯」といって酒も飲むし、酔えば女の話だってする。
顔を合わせると下ネタばかりのしょうもないじいさんもいた。
俺もここに顔を出すくらいなので、小さい頃から坊さんの活躍する話は好きだったんだが、
「現実はまぁ、こんなもんだよね」
というのが当初の感想だった。
肝心の修行の内容だが、早起きして勤行。
山を歩いて、石仏などの前で勤行。帰ってきて勤行。
といった調子で、毎日沢山歩いてお経を唱えまくる、というもの。
山を歩いてお経を唱えまくる「大変充実した」日々に、日頃不摂生をしている俺の体はすぐに悲鳴を上げた。
足には簡単にマメができるし、筋肉痛も酷い。始めの数日は修行に来たことを本当に後悔したよ。
それでも人間は意外と慣れるもので、辛い生活にも段々と慣れ、そのうちに単調な生活に退屈さすら感じるようになったんだ。
そんなある日の修行中。
山の中で俺は急に怒鳴られたんだ。
「俺君、足下に注意せんか!!」
驚いて顔を上げると、大声を出したのは例の下ネタじいさん。
退屈だな~とは思っていたが、怒鳴られる程ボーッとしているつもりも無かった俺は、
一瞬きょとんとしてしまった。
「へ?」
声は出ていなかったように思うが多分そんな顔をしていたと思う。
その瞬間、俺の持っていた修行用の杖が折れたんだよ。急に。
普通折れるわけがないんだ、その杖。ある程度太いし俺のは新しいし。
バランスを崩した俺は転倒寸前に。
ぎりぎりで踏みとどまったが、もう少しで山道を転げ落ちる所だった。
何がなんだか解らない俺は、「スイマセン!スイマセン!」と取り敢えず周りにぺこぺこ。
じいさんの方を向くと、「修行中は色んなことがあるからな。気を抜くな」とのこと。
色々と聞きたい俺を尻目にじいさんは再び歩き始めてしまった。
その日の夜。俺はじいさんに昼間のことを聞こうとしたんだが結局はぐらかされてしまったよ。
その日は諦めて床についたんだ。
スッ、シュ、ズザッ。ザー。
明け方、だったと思う。不思議な音を聞いた(気がしただけかもしれん)。
目覚めてしまった俺は、何とはなしに廊下の方に目をやると何かが動いている。
黒い。
寺の廊下はただでさえ暗いのだが、闇よりも黒い何かが動いている。
黒い塊がもぞもぞしていると思ったら、急に廊下の右隅から左隅へとそれは移動を始める。
寺の広い部屋で雑魚寝をしていたんだが、開けている障子の越しに、そいつが移動しているのが見える。
伝わるかな?「まとめた障子→□■□■←そいつ」
みたいな感じで障子の隙間を段々と左に移動してるんだ。
そいつはでかい蛇のようで、ビビッた俺は目を閉じた。
覚えたての般若心経を心の中で必死に唱え、布団の中で丸くなったんだ。
どのくらいそうしていたか解らない。ただ、不思議な音は暫く続いていた。
次の日、その出来事が夢なのか現実なのかも解らないまま俺は行に入った。
その日は本当に集中できなかったな。
何となく嫌な汗をかくし、体が重いんだ。
その日の修行も終わりに近付いた頃、例のエロじじいがお寺の一番偉い坊さんと何かをしゃべっている。
そしてじじいが俺の方に来て一言。
「ワシとちょっと来なさい」
3度目のへ?だ。
何故か俺はじいさんに連れられて本体とは別行動になってしまった。
ヤツに連れて行かれたのは1時間程歩いたところにある小さな小さな神社だった。
「勤行」
と真面目な声で命じるじいさん。
訳が分からないままお経を唱える俺。
ちなみに神社でお経って奇妙に思えるかもしれないが、
神仏習合っていってさ、日本の山岳宗教なんかじゃ割とよくあることだそうだ。
お経が終わると静かにこっちを向くじいさん。
「ここ、何を祀っているかわかるかな」
首を振る俺を見て、
「ま、しっかり挨拶をしたんだ。大丈夫だろ。帰るぞ!」
とのこと。それ以降何を聞いても、「今日の飯はなんだろうな」などと相変わらず答えてくれない。
その日、どうしても納得のいかない俺は、寺で一番偉い坊さんに直接話をしにいったんだ。
あのじいさんは何なんだ。と。
ゆっくり坊さんが口を開いた。
「正直、私には見えない世界のことはわからない。センスが無いんだよ」
「でもね、中には霊感っていうのかな。目に見えないものが見える人も中にはいるようなんだな。
時々そういう相談もくるんだよ、坊さんをやってるとね。でね、○○さん(じいさんな)は見える人みたいなんだ」
「今日、○○さんと神社行ったろ。○○さんが、君にそこの神さんに挨拶をさせろというんだ。俺君、杖折れただろ。修行中に。
それも神さんからのメッセージだって○○さんがいうんだ」
ずっ、と坊さんがお茶をすする。
「あの神社な、黒龍さんが祀られてる。まぁ、今でいう大蛇だな」
ゾクリと寒気がした。
昨日のアレを思い出したからだ。俺は夢だとは思うんですが実は……、と昨日のことを話した。
すると坊さん、
「もし今後、何かが見えたり聞こえたりする事があっても心を強く持ちなさい。
殆どが気のせいだ。ただ、もしどうしても辛くなったらもう一度相談しなさい」だとさ。
何を言っているのかさっぱり解らん。
今思えば突っ込みどころが満載なんだが、「黒龍さん」という言葉を聞いて昨日の夢だか現実だかも解らない出来事との不思議な一致にびびっていた&混乱していた俺は
「……はい」としか言えなかった。
因みにじいさんについては「○○さんはね、昔はそりゃあ怖かったんだよ。
私の大先輩でね。悪い人じゃないし、そのうち解るよ」とのこと。
全く腑には落ちないが、良く理由の分からない「挨拶」のおかげか、その後何事もなく修行を終えることができた。
さて、俺に取ってはここまででも、山での辛い日々も含めて洒落にならん経験だったんだが……、
以来、時々見えるんだよ、見える筈のないものが。声が聞こえることもある。
それにあの神様が関係あるのかどうかは解らないが、あれ以降割と頻繁に。
あまりに頻繁だから一応、CTで脳も輪切りにしたんだ。でもなんでもなかった。
耐えられそうに無かった俺は、例の一番偉い坊さんに連絡をとった。
何が一番洒落怖かって、結局俺、仕事を辞めることにしたんだ。出家する。
仕事の為と思って行った寺でわけの分からないもの見て、以来変なモノばかり見える。
少なくとも俺の人生が変わる位洒落にならん出来事だった。

引用元:心霊-都市伝説ナビ-

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